双極症カウンセリング

極端な気分の変動が特徴的な双極症は、躁状態と抑うつ状態を繰り返し、日常生活に大きな影響を与える。早期に症状を認識し、適切な支援や周囲のサポートを受けることで、生活の質を大きく改善することが可能。

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あなたは大丈夫?心のジェットコースター「双極症」の真実

「こころのジェットコースター」

「ハイになったり、急に落ち込んだりする」

もし、そんな心の状態に思い当たる節があるなら、それは単なる性格や気分の問題ではなく、双極症(双極性障害)という精神疾患のサインかもしれません。

双極症は、文字通り「心のジェットコースター」のようなものです。気分が異常に高揚し、エネルギッシュになる「躁状態」と、深く落ち込み、絶望感に襲われる「抑うつ状態」が交互に現れるのが特徴です。その激しい感情の波は、本人だけでなく、周囲の人々にも深刻な影響を及ぼします。

しかし、双極症は決して「治らない病気」ではありません。正しい知識と適切なサポートを得ることで、症状をコントロールし、安定した生活を送ることは十分に可能です。この記事では、双極症の症状から原因、社会的な誤解まで、専門的な視点も交えながら、読者の皆様が安心して理解できるような形で深く掘り下げていきます。

躁と鬱の二つの顔

「二つの顔」

双極症は、大きく分けて躁状態抑うつ状態という、正反対の二つの顔を持っています。この二つの状態の間に、気分が比較的安定した時期(間欠期)があることも特徴です。

躁状態のサイン

躁状態では、気分が異常に高揚し、普段とはかけ離れた行動をとることがあります。

  • 過剰なエネルギーと活動性: ほとんど眠らなくても疲れを感じず、次から次へと行動を起こします。
  • 自信過剰と楽観性: 自分の能力を過大評価し、成功する根拠のない自信に満ちあふれます。
  • 衝動的な行動: 無計画な高額な買い物、ギャンブル、無謀な投資など、後先考えないリスクの高い行動が増えます。
  • 思考の加速と多弁: 頭の中で思考が猛スピードで駆け巡り、相手の会話を遮ってまで話し続けることがあります。

抑うつ状態のサイン

一方、抑うつ状態では、気分が大きく落ち込み、心身ともにエネルギーを失います。

  • 持続的な気分の落ち込み: 何をしていても楽しくなく、悲しみや虚無感にさいなまれます。
  • 興味や意欲の喪失: これまで楽しんでいた趣味や活動に興味が持てなくなり、何もする気が起きません。
  • 睡眠や食欲の異常: 過剰に眠り続ける、またはほとんど眠れない。食欲がなくなったり、逆に過食になったりするなどの変化が見られます。
  • 自己嫌悪と無価値感: 「自分はダメな人間だ」と深く自己を責め、時には死を考えるほど追い詰められることもあります。

重要な注意点: これらの症状は、双極症の人すべてに同じように現れるわけではありません。また、単なる気分の浮き沈みや一時的な不調と混同されがちですが、その深刻度と持続期間が大きく異なります。

あなたの生活に潜む兆候

双極症の感情の波は、日常生活のあらゆる側面に影響を及ぼします。その影響を理解し、早期にサインを見つけることが、適切なサポートにつながります。

仕事や学業への影響

躁状態の過剰な自信は、仕事や学業において衝動的な決断を促すことがあります。周囲の意見を聞かずにプロジェクトを立ち上げたり、能力以上の仕事を引き受けて失敗したりするリスクが高まります。一方、抑うつ状態では、集中力や記憶力が低下し、締め切りを守れなくなったり、以前は簡単にこなせた作業ができなくなったりして、評価を下げてしまうことがあります。

人間関係への影響

双極症の症状は、大切な人間関係にも影を落とします。躁状態の時には、多弁になったり、自己中心的な行動をとったりすることで、友人や家族との間に摩擦が生じやすくなります。また、衝動的な行動が信頼関係を損なう原因になることも少なくありません。抑うつ状態では、引きこもりがちになり、連絡を絶つことで、孤独感が深まり、周囲との関係が疎遠になってしまうことがあります。

健康への影響

激しい気分の変動は、身体にも大きな負担をかけます。躁状態では、睡眠不足や不規則な生活が続き、体調を崩しやすくなります。抑うつ状態では、エネルギー不足から運動不足になり、食欲の異常から体重の増減が激しくなるなど、生活習慣病のリスクを高めることもあります。

なぜ双極症になるのか?そのメカニズムを紐解く

「躁とうつの世界」

双極症は、単一の原因で発症するわけではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

遺伝的な要因

双極症には、遺伝的な素因があることがわかっています。家族に双極症を抱える人がいる場合、そうでない人に比べて発症リスクが高まります。しかし、これは遺伝子だけで決まるものではなく、あくまで「なりやすい体質」を受け継ぐということです。

生物学的な要因

脳内の神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなど)のバランスの乱れが、気分の変動を引き起こすと考えられています。これらは私たちの気分、意欲、感情を司る重要な物質です。双極症の治療に気分安定薬が用いられるのは、この神経伝達物質のバランスを整えることが目的です。

環境的な要因

ストレスや大きな生活の変化、トラウマといった環境的な要因も発症のきっかけとなることがあります。大切な人との別れや仕事での失敗、過度なストレスなどは、心の安定を揺るがし、双極症の症状を引き起こすトリガーとなりえます。

ホルモンの影響: 女性の場合は、生理周期や妊娠・出産後のホルモン変動が、双極症の症状に影響を与えることもあります。

双極症は、自己管理だけで症状を完全にコントロールすることは困難です。早期発見と適切な専門的支援が、症状の改善と安定した生活を送るための鍵となります。

双極症の誤解を解き、偏見をなくす

双極症に対する社会的な誤解や偏見は、依然として根強く残っています。これらが、患者さんの社会的な孤立や、治療への抵抗感を生み出す原因となっています。正しい知識を持つことで、偏見をなくし、生きやすい社会をつくっていきましょう。

誤解1:双極症は単なる気分の浮き沈み

真実: 双極症の気分の変動は、誰にでもある一時的な落ち込みやハイテンションとは異なります。その変動は極端かつ長期間にわたり、日常生活、仕事、人間関係に深刻な影響を及ぼします。これは、意志の力だけでコントロールできるものではありません。

誤解2:双極症の人は暴力的で危険

真実: 双極症を持つ人が必ずしも暴力的であるという偏見は誤りです。躁状態では、過剰なエネルギーや衝動性が現れることがありますが、これはあくまで症状の一部であり、暴力とは直接的な関連性はありません。適切な治療を受けている多くの人は、穏やかに日常生活を送っています。

誤解3:双極症は一生治らない

真実: 確かに双極症は慢性的な疾患ですが、症状の管理は十分に可能です。適切な薬物療法や心理療法を継続することで、多くの人が症状を安定させ、再発を予防しながら社会生活を送っています。

誤解4:双極症の人は仕事や学業ができない

真実: 症状が重い時期には困難を伴うことがありますが、適切な治療と環境調整によって、仕事や学業を続けることは可能です。専門家のサポートを受けながら、自身の症状や特性に合った働き方を見つけることで、双極症を持つ人も社会で活躍できます。

双極症は一人ひとりに異なる形で現れます。そのため、状況に応じたきめ細やかなサポートと、柔軟な理解が不可欠です。

自己管理とセルフケア

「セルフケア」

双極症の治療は、薬物療法が中心となりますが、ご自身でできる自己管理とセルフケアも非常に重要です。

規則正しい生活習慣

生活リズムの乱れは、気分の波を不安定にさせることがあります。毎日決まった時間に寝て起きる、食事や運動を規則的に行うなど、安定した生活習慣を心がけましょう。

ストレス管理

ストレスは、双極症の症状を悪化させる大きな要因です。日々のストレスを減らすために、マインドフルネス、ヨガ、深呼吸などのリラックス法を取り入れたり、時には負担の大きい状況から距離を置くことも大切です。

自己モニタリング

自分の状態を客観的に把握するために、気分やエネルギーレベル、睡眠時間などを毎日記録する習慣をつけましょう。これにより、気分の波のパターンや、症状の兆候を早期に察知でき、悪化する前に対応することができます。

サポートネットワークの活用

一人で抱え込まず、家族や友人、そしてカウンセラーなど、信頼できる人々とコミュニケーションをとりましょう。自分の気持ちを話すことで、精神的な安定感が得られ、孤立を防ぐことができます。

家族や友人ができること

「周りの方のサポート」

双極症を抱える人を支える家族や友人の役割は非常に重要です。しかし、無理をして共倒れにならないよう、適切なサポート方法を知ることが大切です。

理解と教育

まずは、双極症について正しく理解しましょう。病気の症状や、本人がどのような苦しみを抱えているのかを知ることで、無理解からくる衝突や誤解を避けることができます。

安定した環境の提供

規則正しい生活を送れるようにサポートすることが大切です。睡眠時間を守らせる、一緒に散歩をするなど、穏やかな日常を維持できるよう手助けしましょう。

症状の兆候を早期に察知

気分の変動や行動の変化に気づくことで、症状が悪化する前に専門家に相談するタイミングを見極めることができます。

自分自身のケアも大切に

双極症の人を支えることは、精神的に大きな負担となる場合があります。必要であれば、ご自身もカウンセリングを受けるなどして、ストレスを軽減し、心身の健康を保つように努めてください。

精神的な健康と生活の質を向上させる

双極症は、心理的な側面からもアプローチすることで、より効果的に改善を目指すことができます。

感情の調整スキルを身につける

感情の波にのまれず、適切にコントロールするためのスキルを身につけます。過去の経験から生まれた歪んだ思考パターンを認識し、より建設的な考え方へと修正していく作業が不可欠です。

自己効力感を高める

双極症によって失われがちな自信を取り戻すために、小さな目標を設定し、達成していく経験を積み重ねます。この成功体験が、やがて大きな自己肯定感へとつながっていきます。

予防と再発防止のために

双極症の症状を改善し、安定した生活を続けるためには、再発を防ぐことが重要です。

大阪聖心こころセラピーでは、双極症をはじめとする心の不調を抱える方々をサポートしています。私たちは、表面的な症状の緩和だけでなく、その根本にある考え方や捉え方の癖を共に探り、あなたにとって唯一無二の、心にフィットする考え方を身につけるお手伝いをします。

これまでの辛い経験や苦しみを整理し、物事の見方を自分に合ったものに修正することで、症状が良くなっても再び悩みに逆戻りするリバウンドを防ぎます。双極症の再発防止には、こうした根本的な心のあり方の変革が不可欠なのです。

もし、ご自身やご家族、ご友人が双極症かもしれないと感じたなら、一人で抱え込まず、ぜひ一度ご相談ください。専門家との対話を通じて、安定した未来への第一歩を踏み出しましょう。

参考文献・参考資料

  • 野村総一郎(監修)(2017) 『新版 双極性障害のことがよくわかる本』 講談社
  • 日本うつ病学会(2023) 『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』
  • アメリカ精神医学会(著),日本精神神経学会(監訳)(2023) 『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアルテキスト改訂版』 医学書院

この記事を書いた人

榊原カウンセラーは臨床心理士・キャリアコンサルタント・管理栄養士。日本福祉大学大学院修了(心理学修士)、名古屋学芸大学卒。公立小学校での栄養教諭を経て、現在は心理・教育・栄養の複合的な視点から支援活動を行う。日本心理学会・日本心理臨床学会会員として、心の健康や対人関係に関する情報発信・執筆にも力を注いでいる。

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