パーソナリティ症カウンセリング

パーソナリティ症には、いくつかのタイプがあります。たとえば、人との関わりを避けがちで孤独を感じやすい傾向、自分の考えに強くこだわる傾向、他者の意見を受け入れることが難しい傾向、あるいは人に依存しやすい傾向などです。こうした特徴が強く出ると、本人や周囲の人にとって日常生活や人間関係が困難になりやすいと言われています。

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目次

 パーソナリティ症とは?生きづらさを解消するヒント

「自身の状態について考える」

人にはそれぞれ個性があり、考え方や行動パターンも異なります。それは多様性として尊重されるべきものです。しかし、その偏りが極端で、社会生活や人間関係に著しい支障をきたすほどになった場合、それは単なる個性ではなく、「パーソナリティ症」と呼ばれる心の状態かもしれません。

かつては「人格障害」と呼ばれていたこの概念は、差別的なニュアンスを含むことから、現在では「パーソナリティ症」という名称が使われることが一般的になっています。ここでは、パーソナリティ症の基本的な概念から、その多様なタイプ、そして克服への道筋について、わかりやすく解説していきます。

あなたの「個性」が「生きづらさ」に変わる時

私たちは、それぞれの個性を持って生きています。明るい人、内気な人、几帳面な人、大らかな人。これらはすべて、その人を形作る大切な要素です。しかし、その個性が行き過ぎてしまうと、自分自身や周囲の人々を苦しめる原因になることがあります。

たとえば、新しい環境に馴染めない、人付き合いが苦手、いつも人間関係のトラブルを抱えている、周囲の人が離れていってしまう、といった経験はありませんか? もし、そうした状況が一時的なものではなく、長期間にわたって続き、日常生活に大きな支障をきたしているなら、それはパーソナリティ症のサインかもしれません。

パーソナリティ症は「性格」とは違う?

パーソナリティ症は、単なる「悪い性格」ではありません。それは、その人の思考や感情、行動パターンが、文化的な規範から著しく逸脱し、柔軟性を欠いている状態を指します。そのパターンは、青年期または成人期早期に始まり、安定して長く続くことが特徴です。

そして、最も重要な特徴の一つに、「本人に自覚がないことが多い」という点があります。そのため、自分の行動が周囲にどのような影響を与えているか理解できず、結果的に人間関係のトラブルを繰り返し、孤立してしまうことがあります。

 パーソナリティ症を理解するための3つのタイプ

パーソナリティ症は、その特徴によって大きく3つのタイプ(クラスター)に分けられます。それぞれ異なる傾向を持つため、自分がどのタイプに当てはまるのかを知ることで、自分自身の生きづらさの根源をより深く理解する手助けになります。

1. 不安・心配型のパーソナリティ症(クラスターC

「不安と孤独」

このタイプは、不安や恐怖心が非常に強く、自己肯定感が低いことが特徴です。他者からの評価を過剰に気にするあまり、人との関わりを避けたり、逆に過度に依存したりする傾向が見られます。

回避性パーソナリティ症

「どうせ嫌われるから、人とは関わらない」

このタイプは、人から否定されたり、恥をかいたりすることを極度に恐れます。そのため、人との深い関係を築くことを避け、社会的な交流からも距離を置こうとします。しかし、決して人を嫌っているわけではありません。むしろ、人とのつながりを強く求めているにもかかわらず、自信のなさから一歩踏み出せないでいるのです。

依存性パーソナリティ症

「誰かに頼っていないと、何もできない」

自分で何かを決めることができず、常に誰かに世話をしてもらいたい、支えられたいという強い欲求を持っています。特に親しい人からの「見捨てられ不安」が強く、相手に嫌われないために、無理なことでも引き受けてしまったり、相手にしがみつくような行動をとったりすることがあります。

強迫性パーソナリティ症

「完璧でなければ、意味がない」

このタイプは、完璧主義が極端になり、融通が利かないことが特徴です。社会的ルールや道徳に異常なほど従順で、物事の順序や細部にこだわりすぎ、自分だけでなく他人にも完璧を求めてしまいます。仕事に没頭するあまり、プライベートを犠牲にしてしまう「ワーカホリック」になりやすく、うつ病のリスクも高くなります。

2. 激情型のパーソナリティ症(クラスターB)

「感情が大きく揺さぶられる」

このタイプは、感情の起伏が激しく、自己中心的で、他者を巻き込むトラブルを起こしやすい傾向があります。衝動的な行動や、不安定な人間関係が特徴です。

境界性パーソナリティ症(ボーダーラインパーソナリティ症)

「愛してほしい。でも、どうせ見捨てられる」

パーソナリティ症の中でも最も多く見られるタイプです。「見捨てられ不安」が非常に強く、相手が自分を見捨てないか絶えず試すような行動をとります。感情のコントロールが難しく、少しのことで激しく怒ったり、自暴自棄になったりするため、人間関係が不安定になりがちです。敵味方をはっきりさせ、不満を感じるとすぐに相手を敵とみなす衝動性も持ち合わせています。

自己愛性パーソナリティ症

「私は特別な存在だ。あなたは私を崇拝すべきだ」

ありのままの自分を愛せないため、自分は人より優れている、特別な存在でなければならないという歪んだ考えを持っています。他人を利用したり、見下したりすることに喜びを感じる傾向があり、批判されると激しく怒ります。そのため、安定した人間関係を築くことが困難です。

反社会性パーソナリティ症

「自分の利益のためなら、他人はどうでもいい」

他者の権利や感情を無神経に軽視し、自分の利益のためなら平気で嘘をついたり、人を騙したりします。不満があると感情を抑えられず、暴力を振るうことも少なくありません。犯罪行為を繰り返す傾向があり、社会的なルールや道徳観念に縛られることがないのが特徴です。

演技性パーソナリティ症

「いつも誰かに注目されていたい」

このタイプは、常に他者の注目を集めようとします。大げさな言動や派手な外見で関心をひこうとし、注目されないと自分の価値が見出せなくなり、強いストレスを感じます。一見、表現力豊かで華やかに見えますが、その精神は不安定で、感情的な混乱を抱えています。

3. 病理的なパーソナリティ症(クラスターA)

「複数人からの孤立」

このタイプは、風変わりで奇妙な印象を周囲に与えることが特徴です。統合失調症と関連が深いとされ、現実離れした思考や、人との交流を避ける傾向が見られます。

猜疑性パーソナリティ症

「みんな、私のことを悪く言っているに違いない」

根拠がないにもかかわらず、他人を極度に疑い、信用することができません。他人の意見や行動を、すべて自分への批判や危害と解釈してしまうため、周囲の人々を遠ざけてしまいます。プライドが高く、不当な扱いを受けると激怒したり、恨みを抱き続けたりする傾向があります。

シゾイドパーソナリティ症

「一人でいるほうが気楽だ」

人との付き合いに関心がなく、社会的に孤立していることが特徴です。人から批判されても褒められても関心が低く、感情表現も乏しいため、クールで静かな印象を与えます。一人で空想にふけることを好み、孤独を感じることはほとんどありません。

統合失調症型パーソナリティ症

「あの人の視線、私に何かを訴えかけている

このタイプは、現実離れした奇妙な思考を持ち、人と親密な関係を築くことが困難です。他人の行動や言葉をすべて自分と関係づけて考えてしまう「関係念慮」が見られます。超能力や霊感、テレパシーなどに強い関心を持つこともありますが、幻覚や幻聴の兆候はありません。

なぜパーソナリティ症になってしまうのか?

パーソナリティ症は、生まれつきの気質や遺伝的な要因、そして育った環境や社会的な経験が複雑に絡み合って形成されると考えられています。

幼少期の経験が大きく影響する

パーソナリティ症を持つ人の多くは、幼少期に十分な愛情を受けられなかったり、親からの厳しいしつけやネグレクト、虐待を経験したりしているケースが少なくありません。こうした経験から、「自分には価値がない」「誰も私を愛してくれない」といった自己否定的な信念が形成され、それが大人になってからの人間関係や社会生活に影響を及ぼします。

しかし、幼い頃に何の問題もなかった人が、社会に出てからパーソナリティ症の症状を露呈することもあります。多様な価値観に触れる中で、自分の考え方の偏りに気づき、戸惑いや生きづらさを感じることがきっかけとなる場合もあるのです。

克服の鍵は「気づき」と「向き合い」

パーソナリティ症の克服は、決して簡単なことではありません。しかし、適切なアプローチをすることで、生きづらさを軽減し、より穏やかな毎日を送ることは十分に可能です。

1. 自分の思考パターンに気づく

パーソナリティ症の根底にあるのは、「自分自身に対する自信のなさ」と、そこからくる「偏った考え方」です。

たとえば、「どうせ失敗するからやらない」「どうせ誰も私を理解してくれない」「すべては他人のせいだ」といった思考パターン。これらは無意識のうちに定着してしまい、自分自身をがんじがらめに縛りつけています。

まずは、こうしたネガティブな思考パターンを客観的に見つめ直すことが第一歩です。自分の感情が揺れ動いた時、「なぜ今、自分はこんなに怒っているんだろう?」「なぜこんなに不安なんだろう?」と自問自答してみましょう。

2. 破壊的な行動を修正する

パーソナリティ症の人は、人間関係においても、日常生活においても、破壊的・破滅的な行動をとってしまうことがあります。人を攻撃したり、利用したりすることで安心感を得ようとする傾向があるため、次第に周囲から人がいなくなってしまいます。

そうした行動の根底には、幼少期からの「心の傷」が隠されていることが多いです。しかし、その傷を他者にぶつけても、問題は解決しません。自分の行動が他者を傷つけていることに気づき、その行動を少しずつ修正していく必要があります。

3. 自己評価を適正なものにする

パーソナリティ症を持つ人の中には、何の根拠もないのに自己評価が異常に高い人がいます。他人を見下したり、軽蔑したりすることで、自分の優位性を保とうとするのです。

しかし、このような態度は周囲から反発を招き、結局は孤立してしまいます。人からの評価は、自己評価の大きな部分を占めます。自分の功績を過大評価せず、他者の意見にも耳を傾けることで、現実と向き合い、適切な自己評価を築いていくことが重要です。

カウンセリングは、新しい自分に出会うための羅針盤

パーソナリティ症の根本的な改善には、薬物療法だけでは限界があると言われています。なぜなら、これは脳の病気というより、思考や行動のパターンの問題だからです。

そこで有効なのが、カウンセリングです。カウンセリングは、単に話を聞いてもらう場ではありません。それは、自分を縛りつけている偏った思考パターンや歪んだ価値観に気づき、それを修正するためのトレーニングの場です。

認知行動療法

この療法は、物事の捉え方(認知)と行動の歪みを修正し、より適応的な考え方や行動を身につけることを目指します。たとえば、「私はどうせ何もできない」という考えを、「できることから少しずつやってみよう」という前向きな思考に変えていきます。

催眠療法(ヒプノセラピー)

潜在意識にアプローチし、心の奥底に眠るトラウマや、パーソナリティ症の原因となっている幼少期の経験を解放する手助けをします。これにより、破壊的な衝動を抑え、穏やかな感情を取り戻すことが期待できます。

生きづらさの連鎖を断ち切るために

パーソナリティ症は、あなたを不幸にする連鎖を生み出します。偏った考え方から行動の歪みが生まれ、それが人間関係のトラブルを招き、ますます自分を孤立させていく。この悪循環を断ち切るには、自分一人で抱え込まず、専門家と一緒に根本的な原因と向き合うことが不可欠です。

幸せな人生を歩むための第一歩

「自身を見つめ直す時」

「私は悪くない、悪いのは周りだ」

そう思っている間は、生きづらさから解放されることはありません。パーソナリティ症の問題は、最終的には「自分の考え方を変える」ことでしか解決できないからです。

しかし、自分一人でその重い扉を開けるのは非常に困難です。大阪聖心こころセラピーでは、あなたの個性と向き合い、生きづらさの根源となっている心の癖を丁寧に解きほぐしていきます。

人から愛され、信頼される人生。

自分を肯定し、心穏やかに生きる人生。

そうした幸福に満ちた人生は、決して遠い夢ではありません。あなたの「変わりたい」という気持ちを大切に、私たちと一緒に、新しい一歩を踏み出してみませんか?

参考文献・参考資料

  • 岡田尊司(2011) 『パーソナリティ障害がよくわかる本-「障害」を「個性」に変えるために』 ちくま文庫
  • 市川玲子・望月聡(2014) パーソナリティ障害特性と自尊感情の諸側面との関連-変動の大きさおよび随伴性に着目して パーソナリティ研究 第23巻 第2号
  • アメリカ精神医学会(著),日本精神神経学会(監訳)(2023) 『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル テキスト改訂版』 医学書院

この記事を書いた人

榊原カウンセラーは臨床心理士・キャリアコンサルタント・管理栄養士。日本福祉大学大学院修了(心理学修士)、名古屋学芸大学卒。公立小学校での栄養教諭を経て、現在は心理・教育・栄養の複合的な視点から支援活動を行う。日本心理学会・日本心理臨床学会会員として、心の健康や対人関係に関する情報発信・執筆にも力を注いでいる。

この記事の監修者

公認心理師・臨床心理士。教育支援センターやスクールカウンセラーとして不登校支援や保護者相談、教職員へのコンサルティングに従事。心療内科や児童発達外来にて心理検査・カウンセリングも担当。現在はオンラインカウンセリングや、心理学と仏教を融合させたセミナー活動などを行っている。

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