強迫性障害カウンセリング

強迫性障害・強迫神経症とは、下り坂を駆け出し止まりたくても止まれない状態と同様であり自分ではどうしようもない程の強迫観念の呪縛
代表的なものに「潔癖症」があり、正論で説得には意味を成さず、認知行動療法が有効である

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目次

心の不安から解放されるための道しるべ

「強迫性障害の苦悩」

「また鍵をかけ忘れたんじゃないか」「手が汚れている気がする」…頭では「大丈夫」だと分かっていても、どうしてもその不安が拭い去れない。何度も何度も確認したり、過剰に手を洗ったりしてしまう。それは、まるで自分の中の何かが行動を支配しているかのようで、止めようとしても止められない、つらく苦しい葛藤ではないでしょうか。

その苦しみは、あなた一人だけのものではありません。それは「強迫性障害」と呼ばれる、心の状態かもしれません。

強迫性障害とは、自分の意思とは関係なく頭にこびりついて離れない不合理な考えやイメージ(強迫観念)と、それによって生じる強い不安を打ち消そうとするために繰り返される特定の行動や心の儀式(強迫行為)がセットになって現れる心の病気です。この記事では、強迫性障害の正体から、そのつらい症状との向き合い方、そして心の重荷を軽くしていくためのヒントまで、専門的な知見を交えながら、分かりやすくお伝えします。

「分かっているのにやめられない」強迫性障害のつらいループ

「確認行為」

強迫性障害の最もつらい点は、「分かっているのにやめられない」という葛藤にあります。例えば、外出前に何度も家の鍵を確認する行動は、あなたが「鍵をかけ忘れて泥棒に入られたらどうしよう」という強い不安に襲われているからです。この不安を一時的にでも和らげようとして、鍵を確認するという行動を繰り返してしまいます。

しかし、この行動は、一時的な安心感しか与えてくれません。しばらくすると、再び「本当に鍵はかかっているだろうか?」という不安が湧き上がり、同じ行動を繰り返さずにはいられなくなります。これが強迫性障害のつらい「悪循環」です。

周囲の人が「大丈夫だよ」「やりすぎだよ」と声をかけてくれたとしても、本人も十分にそのことを理解しています。しかし、頭では分かっていても、心の奥底にある不安が強すぎて、やむを得ず行動してしまうのです。この悪循環にはまり込むと、仕事や家事に集中できなかったり、人と会うのが億劫になったりして、日常生活に大きな支障をきたすようになります。この状態が慢性化すると、不安や絶望感からうつ病を併発するリスクも高まります。

強迫性障害の「2つの顔」:強迫観念と強迫行為

「配置へのこだわり」

強迫性障害を理解するためには、その核となる2つの要素を知ることが大切です。それは「強迫観念」と「強迫行為」です。

1.心の奥底に潜む「強迫観念」:脳にこびりつく不合理な考え

強迫観念とは、自分でも「ばかげている」と分かっているのに、頭から離れない不合理な考えや衝動、イメージのことです。具体的には、以下のようなものが挙げられます。

  • 汚染恐怖: 細菌や汚れが気になって仕方がない。電車の手すりやドアノブに触れることができず、外出を避けるようになる。
  • 不完全恐怖: 物がきちんと整理整頓されていないと気が済まない。少しのズレも許せず、何度も配置をやり直してしまう。
  • 加害恐怖: 誰かを傷つけてしまうのではないか、車で人を轢いてしまうのではないか、などの暴力的な考えが頭から離れない。
  • 確認恐怖: 戸締りや火の元、メールの内容に誤りがないかなど、何度も見直してしまう。
  • 宗教的・道徳的な強迫観念: 宗教的な教えや道徳観念に縛られ、自分の行動が「人として間違っているのではないか」と過剰に不安になる。
  • 身体醜形恐怖: 自分の身体や外見が醜い、他人と違うと思い込み、他人の視線が異常に気になる。

これらの考えは、突然湧き上がり、強い不安や不快感を引き起こします。まるで頭の中を乗っ取られてしまったかのように、その考えを振り払うことができず、苦しい気持ちになります。

2.不安を打ち消すための「強迫行為」:やめられない「儀式」

強迫行為とは、強迫観念からくる恐怖や不安を一時的にでも軽減するために、繰り返し行う特定の行動や心の「儀式」のことです。しかし、これは一時的な気休めにしかならず、強迫観念が再び湧き上がれば、また同じ行為を繰り返さなければなりません。

  • 洗浄: 汚れや細菌が気になり、手を何十回も洗う、長時間お風呂に入り続ける。皮膚が荒れてもやめられない。
  • 確認: ガスの元栓や鍵、コンセント、忘れ物などを何度も何度も確認する。出先から家に戻ってまで確認することもある。
  • 繰り返し: ある文章を何度も読み返したり、特定の言葉を心の中で繰り返したりする。
  • 収集: 捨てられないものや、必要のないものを溜め込んでしまう。
  • 儀式: 不安を打ち消すため、特定の回数だけ特定の動作をする。

強迫観念の不安から逃れるために強迫行為を繰り返すうちに、その行動自体がエスカレートしてしまうことがあります。また、強迫観念が強すぎるあまり、その状況や場所を避けようとし、日常生活の行動範囲が狭まってしまうという、もう一つの悪循環も生まれます。

強迫性障害が生まれる「3つの背景」:あなたの心が抱えるヒント

「精神的な苦痛や内面の葛藤」

強迫性障害は、一つの原因で発症するわけではありません。いくつかの要因が複雑に絡み合って、心の不調を引き起こすと考えられています。

1.遺伝と脳の機能:生まれ持った心の傾向

脳科学の研究では、強迫性障害を持つ人の脳の一部(前頭葉や大脳基底核など)が活発に活動していることが分かっています。また、心の安定に深く関わる神経伝達物質である「セロトニン」の働きが関係しているという説もあり、セロトニン系の抗うつ薬が治療に用いられることもあります。さらに、遺伝的な影響も指摘されています。強迫性障害の患者さんの近親者には、そうした傾向を持つ人が一般よりも3〜5倍も多いというデータもあります。

2.性格と気質:「真面目さ」と「完璧主義」がもたらす心の重荷

強迫性障害になりやすい人の特徴として、「完璧主義」で「真面目」、そして「几帳面」な気質が挙げられます。何事も完璧にこなしたいという思いは素晴らしい資質ですが、その思いが強くなりすぎると、少しの失敗や不完全さを許せなくなり、強い不安を抱えやすくなります。この「完璧でなければならない」という強い思い込みが、強迫観念の温床となることがあります。元々、学業や仕事ができる人にも多いと言われるのはこのためです。

3.家庭環境と人間関係:育ちの中で培われた心の癖

親子関係も、強迫性障害の発症に影響を与えることがあります。例えば、厳格な親に育てられると、「失敗は許されない」という意識が強くなり、完璧主義に拍車がかかることがあります。また、過度に心配性な親の元で育つと、常に漠然とした不安を感じやすい性格になることもあります。このような環境では、ありのままの自分を受け入れることが難しくなり、常に「何かが間違っているのではないか」と疑ってしまう心の癖につながることがあります。

負のループを断ち切るために:強迫性障害を克服する3つのステップ

強迫性障害のループから抜け出すには、専門的なサポートを受けることがとても大切です。ここでは、その代表的なアプローチをいくつかご紹介します。

1.「暴露反応妨害法」と「認知行動療法」

強迫性障害の代表的な治療法として知られているのが、「暴露反応妨害法」です。これは、強迫観念を引き起こす状況(暴露)に敢えて身を置き、不安を感じながらも、いつもの強迫行為を「しない」(反応妨害)練習をします。

たとえば、「手を洗わずにドアノブを触ってみる」「鍵の確認を一度でやめる」といった具合です。この方法を専門家と一緒に実践することで、「強迫行為をしなくても不安は自然と消えていく」ということを、頭ではなく体感的に学びます。最初はとても怖いと感じるかもしれませんが、このプロセスが「不安は必ずしも行動を必要としない」という新しい心の習慣を築く第一歩となります。

また、強迫観念の背景にある「完璧でなければならない」「間違ってはいけない」といった不合理な考え方や認知の歪みを修正していく「認知行動療法」も、根本的な改善を目指す上で非常に有効です。

2.「自分の心の声」と向き合うカウンセリング

強迫性障害の根底には、幼少期の親子関係や、過去の経験からくる自己肯定感の低さ、完璧主義といった「心の癖」が隠れていることがあります。カウンセリングでは、そうした心の奥に潜む不安や考え方のパターンを丁寧に探っていきます。

「なぜ私はこんなに完璧でいなければならないのか?」「この不安はどこから来るのか?」といった問いに向き合うことで、これまで気づかなかった自分の心の一面が見えてくることがあります。ありのままの自分を受け入れ、「不完全でも大丈夫」と思えるようになることは、強迫性障害の症状を和らげる上でとても重要なステップです。

3.家族の理解と協力:そばにいる人ができること

強迫性障害は、患者さん本人だけでなく、家族も巻き込むことがあります。家族が知っておくべき最も大切なことは、強迫行為に協力しないことです。不安に駆られて何度も確認を求められたり、過剰な行動に協力するよう頼まれたりしても、その要求には応じないことが大切です。それは、一時的に不安を和らげることになっても、長期的には強迫行為のループを強めてしまうからです。

患者さんを責めたり、無理にやめさせようと説得したりせず、病気への理解を深め、適切な距離を保ちながら、根気強く見守ることが大切です。また、規則正しい生活リズムを整えられるように援助することも重要です。

強迫性障害を「才能」に変えるヒント

「克服への希望」

強迫性障害の症状に悩む人は、しばしば「真面目」「几帳面」「完璧主義」という性質を持っています。これらの気質は、仕事や学業において、細部にまで気を配り、質の高い成果を出す力にもなり得ます。今はつらい症状に苦しんでいるかもしれませんが、この「こだわり」は、あなたの才能の一つの表れでもあります。

強迫性障害を克服することは、この「こだわり」を良い方向に活かせるようになることでもあります。「完璧じゃなくても大丈夫」という新しい考え方を身につけることで、あなたの心は、つらい強迫観念から解放され、より自由に、自分らしく生きる道を見つけられるでしょう。

もし、今、あなたが強迫性障害のつらさに一人で向き合っているなら、ぜひ一度ご相談ください。私たちは、そのつらい心の状態を理解し、あなたが自分らしい人生を取り戻せるよう、寄り添いながらサポートします。

参考文献・参考資料

  • 松永寿人(2013) 強迫性障害の臨床像・治療・予後 精神神経学雑誌 115巻 9号
  • 厚生労働省(2015)『強迫性障害(強迫症)の認知行動療法マニュアル(治療者用)』

この記事を書いた人

榊原カウンセラーは臨床心理士・キャリアコンサルタント・管理栄養士。日本福祉大学大学院修了(心理学修士)、名古屋学芸大学卒。公立小学校での栄養教諭を経て、現在は心理・教育・栄養の複合的な視点から支援活動を行う。日本心理学会・日本心理臨床学会会員として、心の健康や対人関係に関する情報発信・執筆にも力を注いでいる。

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