不登校・ひきこもりカウンセリング

学校へ行かない不登校、理由をつけて働こうとしないニート、いずれも「ひきこもり」となる。
その原因は両親の子供への接し方に起因することは否めないが、責任を子に求め自覚の無い親が多く、当然子は親に心を閉ざすこととなる。

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目次

終わりの見えないトンネルをさまよう当事者と家族

「方向を見失った家族」

なぜ今、不登校・ひきこもり・ニートが増えているのか?

不登校やひきこもり、そしてニート。これらの問題は、かつては一部の家庭で見られる特別なこととされていました。しかし今や、友人や知人、同僚の家庭でも珍しくなく、社会全体の深刻な問題として認識されつつあります。学校に通えない子どもたち、社会に出ることに抵抗を感じる若者たち、そして長期間にわたり自宅に閉じこもる人々。彼らは決して少なくありません。

文部科学省の調査によると、令和4年度の小・中学校における不登校児童生徒数は過去最多となり、また厚生労働省の調査では、15歳から64歳までのひきこもり状態にある人は約146万人に上ると報告されています。これは、大阪市の人口を優に超えるほどの数です。

不登校やひきこもり、ニートは、単なる家庭内の問題にとどまらず、社会全体に大きな影響を及ぼしています。彼らが社会と関わりを持たない「非生産人口」となることで、国の税収は減少し、生活保護費などの福祉費用は増大します。この問題は、当事者や家族だけでなく、社会全体で真剣に向き合うべき喫緊の課題なのです。

終わりのない負のスパイラル

不登校やひきこもり、ニートに共通しているのは、人間関係への悩みや、将来への漠然とした不安から、社会との関わりを絶ち、自宅に閉じこもってしまう点です。

この状態が長く続くと、当事者は「もう学校に戻れないのではないか」「また社会で働けるだろうか」といった不安を強く抱くようになります。そして「これ以上失敗したくない」という強い思いから、ますます外出することが怖くなり、家に引きこもりがちになります。これが、当事者自身を深く追い詰める、終わりのない負のスパイラルなのです。

一方、保護者や家族もまた、この状況に強い焦りを感じます。「早く学校や社会に戻ってほしい」という一心で、本人を強く励ましたり、理解しようと努めすぎたりすることが、かえって当事者を追い詰めてしまい、事態を悪化させることも少なくありません。

不登校やひきこもりは、社会との関わりを断つだけでなく、生活習慣の乱れや、心身の健康にも悪影響を及ぼします。これは、当事者の人生を台無しにするだけでなく、家庭全体を崩壊の危機に陥れるほどの大きな問題です。この問題とじっくり向き合い、一歩ずつ改善していくことが、当事者と家族の未来を守るために不可欠です。

不登校とひきこもりの違い

「閉ざされた世界」

理由が明確な不登校と無自覚な不登校

「不登校」と「ひきこもり」。この二つの問題は、どちらも「外出ができない」という共通点を持っていますが、その心理的な背景には大きな違いがあります。

不登校は、何らかの明確な理由で学校に行きたくないと感じ、家に閉じこもっている状態を指します。いじめ、学業不振、友人関係のトラブル、先生との折り合いの悪さなど、その理由は多岐にわたります。もし当事者が悩みの本質を自覚し、その問題を具体的に解決できれば、比較的早期に改善が見込めます。

しかし、当事者自身もなぜ学校に行きたくないのか、その理由がはっきりとわからない「無自覚な不登校」も少なくありません。このような場合、頭ごなしに叱ったり、「なぜ学校に行かないんだ」と問い詰めたりするのではなく、まずは当事者の話をじっくりと聞き、その心の声に耳を傾けることが大切です。

また、不登校の子どもが「お腹が痛い」「気分が悪い」といった身体の不調を訴えることがありますが、これは本当の理由をごまかしている場合がよくあります。これは、親との間に十分な信頼関係が築けていないため、本当の悩みを打ち明けられない心理が働いているのです。

ひきこもりとニートの相違点

一方、ひきこもりは、社会に出ることに対して漠然とした不安や抵抗感を持っている状態を指します。彼らは、社会に出るのをためらう理由をあれこれ口にするかもしれませんが、その多くは本人自身も明確な理由を自覚していません。そのため、問題の核心が掴みにくく、社会復帰には時間を要すると言われています。

ひきこもりの人が心療内科や精神科を受診すると、「パーソナリティ症(障害)」や「社交不安症(障害)」といった診断名がつくことも珍しくありません。しかし、この「病気」という診断が、かえって「自分は病気だから、外に出なくていい」という言い訳となり、ひきこもりをさらに長期化させてしまうケースも多く見受けられます。

また、ひきこもりと混同されがちなニートですが、両者には明確な違いがあります。ニートは、友人や知人といった身内以外の第三者との関わりをある程度維持していることが多いのに対し、ひきこもりは、一部の身内を除き、すべての人間関係を遮断してしまう点が大きな相違点です。

なぜ、ひきこもりやニートは外に出られないのか?

「見えない未来への迷い」

不登校やひきこもりは、一つの特別な出来事によって引き起こされるのではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発生します。

意欲の低下と社会からの孤立

外出できない原因の一つに、意欲の低下があります。「自分が本当に何をしたいのかわからない」「やりたいことが見つからない」といった状態に陥ると、職場や学校に魅力を感じることができず、家に閉じこもってしまいます。

幼少期に、外の世界で遊んだり、自然に触れたりする中で、人生を楽しむ感覚が育まれなかった場合、彼らの関心は「ゲーム」「パソコン」「アニメ」といった、いわゆる「ひきこもりの三種の神器」と呼ばれるものに集中しがちです。

これらのバーチャルな世界は、現実世界とは異なり、気軽に人間関係を築くことができます。しかし、その反面、人間関係は希薄になりがちです。バーチャルな世界に没頭し、現実から逃避することで、外の世界への無関心はますます強まり、やがて現実社会での生活が困難になっていきます。

理想と現実のギャップ

ひきこもりの期間が長引くほど、社会との接点は失われ、その間に自分本位な偏った考え方を加速させてしまいます。その結果、理想の自分と現実の自分とのギャップに悩み、自己嫌悪を増幅させます。「自分はだめな人間だ」という思いが強まり、自ら社会との溝を深めてしまうのです。

この「本当はこうあるべきなのに、できていない自分」を責める気持ちは、時に強い焦燥感やイライラを引き起こし、暴力や自傷行為に繋がることもあります。周囲の家族は、この点に十分注意を払う必要があります。

不登校やひきこもりの人は、将来に対する展望を持っていないと思われがちですが、実際には、彼らなりに夢や理想を抱いていることが多くあります。しかし、社会とのコミュニケーションが少ないために、その夢や理想が非現実的なものになりがちです。

心の病を併発している可能性

不登校やひきこもり、ニートの問題には、心の病が併発しているケースが多く見られます。心の病が、社会に出たいという意欲を阻み、「行かない」という行動を選択させてしまうのです。

親としては、子に普通の生活を送ってほしいと願うものですが、本人は外に出ないことに何らかの理由を感じています。親は子ども自身に責任があると考えがちですが、その背景には、家庭環境が一因している場合が多々あります。

過保護になりすぎず、かといって放任になりすぎない、適切な距離感を保つことが重要です。親が偉大すぎると感じ、「自分はあんな風にはなれないから」と、最初から諦めてしまう子どももいます。

「働くことは面白い」「人の役に立てた」といった充実感を得られないまま、「働きなさい」と言われ続けることは、当事者の意欲をさらに低下させてしまいます。

ネット社会を生きる彼らの新たな哲学

「孤独な没頭」

リアルな現実世界での交流の重要性

現代社会では、インターネットやSNSが発達し、物理的な距離に関わらず、様々な人と自由に交流できるようになりました。これは、対人関係を築くのが苦手な人にとっては、居場所を見つける貴重な場となりえます。

しかし、ネット上での人間関係には、現実世界での交流にはない希薄さが存在することも事実です。顔の見えないやり取りでは、相手を完全に理解することは難しく、時には悪意を持った人物に騙されてしまうリスクも伴います。

ネットを介した交流は、現実世界から完全に切り離されたものではなく、あくまで現実の一部です。大切なのは、バーチャルな世界で得た学びや繋がりを、現実世界での生活に活かすことです。

変化する価値観と生き方の哲学

ひと昔前と比べ、私たちの価値観は多様化しています。学校を中退して起業したり、主夫になる選択肢も当たり前になってきました。しかし、この多様な選択肢が、逆に「自分の道が見つけられない」という混乱を引き起こすこともあります。

親世代が信じてきた「学校を出て、大学に進学し、一流企業に入る」という安定した道だけが正解ではありません。人生は80年以上と長く、その中を生き抜いていくためには、親が敷いたレールに頼るだけでは不十分です。

親は、子の人生を全てコントロールすることはできません。子どもが自分自身の人生を歩めるよう、親もまた柔軟な姿勢を持つことが求められます。時には、「お金は残さないからね」と宣言し、子どもが自立して生きるための意識を育むことも大切です。

不登校・ひきこもりからの脱却に向けて

「光を求めて」

焦りは禁物、小さな一歩から

不登校やひきこもりの問題を抱えている当事者はもちろん、家族もまた、問題の解決を急いでしまいがちです。しかし、その焦りが本人へのプレッシャーとなり、精神的に追い詰めることになります。

当事者は、表面上は態度に出さなくても、親に対して絶望や不信感を抱いていることがほとんどです。しかし、親が子の気持ちを理解しようと過度に歩み寄ることは、かえって「親は自分の意見を聞いてくれる」という甘えを生み、問題の長期化につながることもあります。

カウンセリングという選択肢

不登校やひきこもり、ニートからの脱却には、家庭内だけで解決しようとせず、専門家の力を借りることが有効な手段です。

大阪聖心こころセラピーでは、まずご両親と面談し、ご家庭の状況を丁寧に把握した上で、最適な対策を共に協議します。

そして、当事者本人とのカウンセリングでは、机上の対話だけでなく、様々なアプローチを組み合わせます。

  • 認知行動療法: 偏った考え方の癖を修正し、物事の捉え方や考え方を構築し直します。
  • 屋外での活動: 公園の散策や自然との触れ合いを通して、遊びや運動から「人生は楽しみに溢れている」という感覚を育みます。

これらの取り組みを通して、当事者が「やるべきことをやれば、幸せになれる」という精神を理解し、主体的に社会と関わっていくための力を養っていきます。

複雑に絡まった糸を無理に解こうとするのではなく、時には一度手放し、新しい糸を紡ぎ始めることが、問題解決への近道となります。

参考文献・参考資料

  • 石川良子(2006) 「ひきこもり」と「ニート」の混同とその問題 教育社会学研究 第79集
  • 田村毅(2006) 不登校・ひきこもりと家族のあり方 生活福祉研究 明治安田生活福祉研究所調査報14巻 4号

この記事を書いた人

榊原カウンセラーは臨床心理士・キャリアコンサルタント・管理栄養士。日本福祉大学大学院修了(心理学修士)、名古屋学芸大学卒。公立小学校での栄養教諭を経て、現在は心理・教育・栄養の複合的な視点から支援活動を行う。日本心理学会・日本心理臨床学会会員として、心の健康や対人関係に関する情報発信・執筆にも力を注いでいる。

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