依存症カウンセリング

依存症とは、特定の物質や行動、人間関係に対するコントロールを失い、日常生活に大きな影響を及ぼす状態です。単なる楽しみや気晴らしが、健康や人間関係を損なう段階に達したときは、専門家の力を借りることが回復への第一歩となります。誰にでも起こりうる身近な問題だからこそ、早期に気づき、相談することが大切です。

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依存症の深い闇から抜け出すために:自分らしい人生を取り戻す第一歩

「心の空虚」

私たちは誰もが、他者や何らかのものに頼りながら生きています。それは決して悪いことではありません。しかし、その頼る対象への気持ちが過度に強まり、自分の意思ではどうにもならない状態になったとき、それは「依存症」という名の深い闇に変わります。依存症は、私たちの人生を少しずつ、しかし確実に蝕んでいくものです。

「依存」という言葉を聞くと、多くの人が「自分には関係ない」「大したことない」と思うかもしれません。しかし、依存症は誰にでも起こり得る、とても身近で、そして恐ろしい病気です。一度陥ってしまうと、抜け出すのが非常に困難になります。そして、その影響は本人だけでなく、大切な家族や友人、そして社会全体にまで及ぶのです。

この記事では、依存症とは何か、その種類やメカニズム、そして依存症の克服に向けて、私たちができることについて、詳しくお伝えします。依存症の本当の怖さを知り、自分自身や大切な人を守るための知識を身につけましょう。

あなたの身近に潜む「依存」の正体とは?

「内なる葛藤」

依存症と聞くと、アルコールや薬物といった特定のものを思い浮かべるかもしれません。しかし、依存症はもっと多岐にわたります。大きく分けると、以下の3つに分類できます。

  1. 物質依存症: アルコールや薬物、ニコチンなど、特定の物質を体内に取り込むことで快感を得ようとする依存。
  2. 対人依存症: 特定の人との関係の中で安心感や自己の存在意義を見出そうとする依存。
  3. プロセス依存症: ギャンブルや買い物、ゲームといった特定の行為(プロセス)に没頭することで快感を得ようとする依存。

これら3つの依存症は、異なる対象に依存しているように見えますが、その根底にある心理的なメカニズムは共通しています。それは、「心が満たされない状態」を、依存対象への行動や物質の摂取によって一時的に満たそうとすることです。

物質依存症:身近なものが毒に変わる時

私たちが日常的に触れる機会の多いアルコールやタバコも、依存の対象となり得ます。

アルコール依存症:一杯が止められないループ

お酒は、楽しい席を盛り上げたり、ストレスを和らげたりする効果があるため、多くの人に愛されています。しかし、その「一杯」がコントロールできなくなると、アルコール依存症の始まりです。

アルコール依存症になると、お酒が手元にないと強い不安やイライラを感じるようになります。そして、一度飲み始めると、自分の意思とは関係なく、止められなくなってしまうのです。お酒を飲むことが生活の中心となり、仕事や家庭、人間関係といった大切なものが二の次になってしまいます。

薬物依存症:心の安定剤が人生を狂わせる

精神安定剤や睡眠導入剤、抗うつ剤といった精神科の薬は、私たちの心の不調を和らげてくれる大切な薬です。しかし、これらの薬も依存のリスクをはらんでいます。

薬物依存症は、薬が切れることへの恐怖や不安から、薬を繰り返し摂取してしまう状態です。本来、薬は医師の指示に従って正しく使用すべきものですが、依存症になると、自己判断で量を増やしたり、複数の薬を併用したりするようになり、心身に深刻なダメージを与えます。違法薬物の場合は、さらに社会的な問題にも発展します。

対人依存症:人と繋がることで自分を失う

人間関係は、私たちの人生に喜びをもたらしてくれます。しかし、その関係が健全なものではなく、一方的な依存になってしまうことがあります。

共依存症:お互いを不幸にする鎖

共依存は、親子や夫婦、恋人同士など、特定の関係の中で互いに依存し合い、不幸な状態が続いてしまうことです。

例えば、相手がいないと自分の存在価値を見出せない、相手を助けることでしか自分の存在を確認できないといった状態です。一見、仲が良いように見えても、そこにはお互いを縛り付け合う見えない鎖があり、健全な関係を築くことができません。

恋愛依存症:愛を求めて彷徨う心

常に恋愛をしていないと不安を感じたり、恋愛をしても幸福感が持続しなかったりする状態です。恋愛依存症の人は、相手に過度に執着したり、逆に相手から見捨てられることを極端に恐れたりします。

このタイプの依存症は、自分の中に満たされない感情があることが原因で起こりやすく、恋愛という形でその穴を埋めようとします。しかし、それは一時的なものでしかなく、根本的な解決にはなりません。

プロセス依存症:手軽な快感がもたらす代償

特定の行為に没頭することで快感を得ようとするプロセス依存症は、現代社会において特に問題となっています。

インターネット依存症:終わりのないバーチャルな世界

スマートフォンやパソコンの普及により、誰もが簡単にインターネットにアクセスできるようになりました。しかし、ネットサーフィン、オンラインゲーム、SNSなどに多くの時間を費やし、現実の生活に支障をきたしている状態をインターネット依存症といいます。

依存症に隠された心のメカニズム

「日常の崩壊」

依存症を克服するためには、その根底にある心のメカニズムを理解することが不可欠です。なぜ、人は特定のものや行為に強く執着してしまうのでしょうか。

脳が快楽を求める仕組み

依存症は、脳の報酬系と呼ばれるシステムが深く関わっています。報酬系は、私たちが生きるために必要な行動(食事、睡眠など)をすると、快感をもたらす神経伝達物質「ドーパミン」を分泌し、その行動を「良いこと」として記憶させます。

しかし、依存性のある物質や行為は、このドーパミンを過剰に分泌させます。脳は、その強い快感を忘れられず、再びその快感を求めようとします。これが、依存の始まりです。

最初は「楽しい」「気分が良い」と感じていたものが、次第に「それがないと気分が悪い」という状態に変わっていきます。そして、快感を求めるだけでなく、その不快感から逃れるために、依存の対象を求めるようになるのです。

精神依存と身体依存:二つの罠

依存症には、大きく分けて「精神依存」と「身体依存」の2種類があります。

精神依存:心の渇望

すべての依存症に見られるのが精神依存です。これは、依存の対象が「ないと落ち着かない」「それがないと自分は成り立たない」と感じる状態です。依存をやめようとすると、強い不安やイライラといった不快感に襲われます。この不快感から逃れるために、何が何でも依存の対象を探そうとする行動が生まれます。

身体依存:肉体の悲鳴

主にアルコールや薬物依存に見られるのが身体依存です。これは、依存物質を長期間にわたって摂取し続けた結果、身体がその物質なしでは正常な機能を維持できなくなる状態です。摂取を中止すると、手の震え、発汗、吐き気といった身体的な症状や、幻覚、幻聴といった精神的な症状(いわゆる禁断症状)が現れます。

ストレスと現実逃避:心の穴を埋めるために

依存症の根本的な原因の一つに、幼少期の生育環境や、現代社会のストレスが挙げられます。

  • 満たされない心の空洞

幼い頃に親からの愛情が不足していたり、自己肯定感が低かったりすると、「自分は愛されていない」「自分には価値がない」といった心の空洞を抱えたまま大人になることがあります。この空洞を埋めるために、無意識のうちに依存症に陥ることがあります。依存の対象が、一時的にその寂しさや虚無感を埋めてくれるからです。

  • ストレスからの逃避行動

仕事や家事、育児に追われる日々の中で、ストレスを感じることは誰にでもあります。しかし、そのストレスに正面から向き合うのではなく、依存の対象に逃げ込んでしまうことがあります。

依存症からの脱却:自分らしい人生を取り戻すために

「依存症と付き合っていく覚悟」

依存症は、一度かかってしまうと完治という概念がありません。しかし、それは「一生苦しみ続ける」という意味ではありません。大切なのは、依存の対象をきっぱりとやめ続け、依存症と向き合い続けることです。

自覚することの重要性

依存症の克服に向けた最初の、そして最も重要なステップは、自分自身が依存症であることを認めることです。「自分はいつでも止められる」「大したことない」という考えは、依存症の進行を加速させてしまいます。

治療のプロに頼るという選択

依存症は、一人で乗り越えるのが非常に困難な病気です。自分の力だけで何とかしようとすると、かえって症状が悪化してしまうこともあります。

そこで重要になるのが、専門家への相談です。カウンセリングや認知行動療法などを通して、依存症の根本原因を理解し、思考の癖や行動パターンを変えていくことが、克服への近道となります。

  • 心理カウンセリング

心理カウンセリングでは、カウンセラーとの対話を通して、自分の心の状態や、依存症に陥った背景を探っていきます。誰にも言えなかった悩みや苦しみを言葉にすることで、心の整理がつき、自分自身を客観的に見つめ直すことができます。

  • 認知行動療法

認知行動療法は、私たちの考え方(認知)や行動が、感情や心身の状態にどのように影響しているかを理解し、より適応的な考え方や行動を身につけることを目的とした心理療法です。

依存症の人が持つ「どうせやめられない」「これでストレスが解消できる」といった歪んだ考え方を修正し、依存の対象に頼らずにストレスに対処する方法を学びます。

記録することから始めるセルフケア

もし、あなたがプロセス依存症(ギャンブル、買い物、ゲームなど)に悩んでいるなら、まずは自分がどれだけその行為に時間とお金を費やしているかを記録してみましょう。

  • お金の記録: ギャンブルに費やした金額、衝動買いに使ったお金など、具体的な数字を書き出してみる。
  • 時間の記録: オンラインゲームやネットサーフィンに費やした時間を記録する。

これらの記録は、自分がどれだけ依存症に深くはまっているかを客観的に知るための第一歩となります。この事実に向き合うことが、変化への強い動機付けとなります。

新しい趣味や居場所を見つける

依存症を克服するためには、依存の対象を「やめる」だけでなく、その代わりに「何をするか」を見つけることも大切です。依存の対象に費やしていた時間やエネルギーを、健康的で建設的な活動に振り向けることで、心の空虚感を埋め、新たな人生を築くことができます。

依存症を乗り越えたその先に広がる世界

「依存症からの脱却」

依存症は、ただ何かを「やめる」ことだけではありません。それは、自分自身と向き合い、人生を立て直していくプロセスです。

変化は自分から生まれる

依存症を克服する道は、決して楽なものではありません。しかし、その道を進むのは、あなた自身です。

「誰かに助けてもらう」という受け身の姿勢ではなく、「自分の足で立つ」という強い意志が何よりも大切になります。

バランスの取れた人生を目指して

依存症に陥ると、一つのことに心を奪われ、人生のバランスを失ってしまいます。仕事、家庭、趣味、人間関係など、すべてが依存の対象に支配されてしまうのです。

依存症を乗り越えることは、このバランスを取り戻すことでもあります。

  • 家族や友人との時間

依存症は、大切な人との関係を壊してしまいます。依存症を克服する過程で、一度失ってしまった信頼関係を時間をかけて築き直していくことは、大きな心の支えになります。

  • スキルアップや自己成長

依存に費やしていた時間やお金を、自分のスキルアップや学びのために使うことで、自信を取り戻すことができます。

寂しさや空虚感を埋める別の方法

私たちは、誰でも寂しさや空虚感を感じることがあります。しかし、依存症という危険な方法でそれらを埋めるのではなく、もっと健康的で建設的な方法を見つけることが大切です。

  • 自分自身と対話する

「自分は何が好きなのか」「どうすれば心が満たされるのか」といった問いを自分自身に投げかけてみましょう。

  • 新しいコミュニティに参加する

依存症の自助グループや、同じ趣味を持つ人々のコミュニティに参加することで、一人ではないという安心感を得ることができます。

人生の舵を自分で握り直す勇気

依存症を克服することは、人生の舵を他でもないあなた自身が握り直すということです。

それは、過去の自分と向き合い、新しい自分を築き上げていくプロセスです。

最後に:依存症を甘く見ないで

依存症は、あなたの人生を台無しにしてしまう病気です。しかし、正しい知識と専門家のサポート、そして何よりもあなたの強い意志があれば克服できます。

「もしかして、自分も依存症かも?」と感じた時、それは、人生を変える大きなチャンスです。どうか、一人で抱え込まず、大阪聖心こころセラピーのような専門機関に相談してください。

参考文献・参考資料

  • 渡辺登(2007) 『依存症のすべてがわかる本』 講談社
  • 内閣府(2021) 令和3年版障害者白書 第5章 第2節 3項 「依存症について」

この記事を書いた人

榊原カウンセラーは臨床心理士・キャリアコンサルタント・管理栄養士。日本福祉大学大学院修了(心理学修士)、名古屋学芸大学卒。公立小学校での栄養教諭を経て、現在は心理・教育・栄養の複合的な視点から支援活動を行う。日本心理学会・日本心理臨床学会会員として、心の健康や対人関係に関する情報発信・執筆にも力を注いでいる。

この記事の監修者

公認心理師・臨床心理士。教育支援センターやスクールカウンセラーとして不登校支援や保護者相談、教職員へのコンサルティングに従事。心療内科や児童発達外来にて心理検査・カウンセリングも担当。現在はオンラインカウンセリングや、心理学と仏教を融合させたセミナー活動などを行っている。

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